黒人ばかりのアポロ劇場(新刊紹介)
Apollo

歴史を感じさせる興味深い書でした。黒人音楽のメッカ、ニューヨークのアポロ・シアターで夜な夜な展開されてきた熱いパフォーマンスとそれを楽しむ観客。その様子をアポロを設立したフランク・シフマンの息子、ジャック・シフマンが本にまとめています。毎日現場で劇場を見つめてきた人だからこその本です。

とは言っても新たに書かれたものではなく、もともとの書が出たのは1971年。もう半世紀以上前です。日本では1973年に武市好古氏の翻訳でスイング・ジャーナル社から出版されていたものです。著者も訳者ももう故人ですが、この度土曜社から久々に復刻出版となりました。

古くからの黒人音楽ファンの方の中には「懐かしい」と感じるものでしょう。僕は今回初めて読みました。

アポロの熱気をノリノリな感じで伝えているものかと思っていたのですが、読んでみると思っていたよりずっと落ち着いた深い内容でした。アポロが存在するハーレムという地域の歴史から始まり、その中で黒人のコミュニティがどのように出来上がっていったのか、そしてアポロ劇場という存在が単なる劇場ではなく、黒人コミュニティの中で精神的支柱とも言える特別な存在となっていったことなどが、深い考察とともに語られています。

ジェイムズ・ブラウン、カウント・ベイシー、エラ・フィッツジェラルド、ライオネル・ハンプトン、ダイナ・ワシントンなどなど、多彩な人たちが登場します。

アポロで演奏するミュージシャンたち、そしてそこに訪れる観客たち…彼らは他では体験できない一種の魔力にかかったような体験をアポロでしてきたのだというのです。それがどういうものなのかをシフマンは、冷静な現場の様子の描写、そして現場の人々の心理を細かく分析しながら語ります。

特に心理的なものについては、多分に彼の思い込みで語られている部分もあるでしょう。でも、アポロという世界的に有名な劇場の重みはひしひしと伝わってきます。

細かく深い描写が中心内容なので、思ったより小難しい印象は受けました。それは、翻訳された日本語が古いせいもあるかもしれません。でも、歴史の1ページを語る古典書ですから、それでいいのだと思います。今回の版は、基本的に元の武市氏の翻訳を尊重し、変更は一部表記などしか行っていないそうです。

なお、土曜社版の出版にあたり、吾妻光良氏の解説が新たに加わりました。これはいかにも吾妻さんらしい語り口で面白かったです。

20世紀の音楽史に大きな足跡を記したアポロ劇場。その歴史のページをめくってみませんか?

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書名:黒人ばかりのアポロ劇場
著者:ジャック・シフマン (Jack Schiffman)
訳者:武市好古
原題:Uptown: The Story of Harlem's Apollo Theatre
発行:土曜社
定価:本体1998円(税別)
解説:吾妻光良
編集装釘:濱田廣也(b.room)
仕様:四六判(190 × 129 × 13.8ミリ)|320頁
初版:2022年7月31日
ISBN978-4-907511-96-8
ウェブサイト:https://www.doyosha.com/82-黒人ばかりのアポロ劇場/

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以下土曜社ウェブサイトより

“黒人音楽の殿堂” として知られる、ニューヨークのアポロ劇場は、ブルース、ジャズ、リズム&ブルース、ソウルの世界で活躍するスターを数多く生み育てました。この忘れがたき劇場の物語を、関係者だからこそ知り得る逸話で彩った本書は、黒人エンタテインメントの魅力を伝える決定的な一冊です。笑いと涙と驚きに満ちたエピソードの数々が登場人物たちを生き生きと蘇らせ、読者を魅了します。寺山修司が絶賛した、武市好古による1973年の訳文でお楽しみください。

〈主な登場人物〉
ベッシー・スミス、ルイ・アームストロング、ビリー・ホリデイ、エラ・フィッツジェラルド、ビリー・エクスタイン、ライオネル・ハンプトン、ルイ・ジョーダン、B・B・キング、テンプテイションズ、マーヴィン・ゲイ、アリサ・フランクリン……

著 者 略 歴
Jack Schiffman〈ジャック・シフマン〉幼少時ラファイエット劇場やハーレム・オペラハウス、そして彼の父フランク・シフマンの経営するアポロ劇場などの楽屋で育った生粋の劇場人。1939年、家を離れウィスコンシン大学へ入学。途中海軍に入隊、コロンビア大学を出向のかたちで卒業。第二次世界大戦後、再びアポロ劇場に戻り父フランクの片腕となり劇場を切り回すが、55年突如フロリダへ移住し農園の経営を始めた。かたわら不動産業、カキの養殖にまで手を出すという多彩な経歴の持ち主。その後、フリーの作家、コラムニストとして活躍した。2009年没。

訳 者 略 歴
武市好古〈たけいち・よしふる〉1935年、徳島市に生まれる。56年から60年にかけて劇団四季演出部に在籍、かたわら岩波映画作品「寄席の人々」「歌舞伎の小道具」を監督。64年から3年間、米ラスベガスでショーの構成および演出にあたる。本書翻訳時は、フリーの映画監督、日本創造企画常任プランナー、日本ルーレット研究会理事。主な作品に「ふたりのロッテ」「陰影礼賛」がある。ジャズメンのリサイタルを構成演出したり、スイングジャーナル誌にエッセイを寄せるなどジャズ界でも活躍した。92年没。
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音楽全般 | 13:48:14 | コメント(0)
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