2023-07-12 Wed
松尾潔さんと山下達郎さんの一件、大きな論争になっていますね。僕のSNS周辺には山下さんのファンも多いようで、今回の件を辛い思いで見ている人も少なくないでしょう。
僕は山下さん、松尾さんいずれもファンでも知り合いでもなく、特にどちらかに肩入れする理由はありません。(松尾さんは、僕がブラック・ミュージック・リヴュー[bmr]に書き始めた90年代、同誌で連載をされていて文章を読んだことはありますが、交流はなかったです。)なので、この一件については冷静な第三者的な視点で見ることができるのではと思っています。
事の発端となった5月15日のRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』における松尾さんのジャニーズ事務所に関するコメント、山下さんのマネジメント会社スマイルカンパニー(SC)との契約終了を報告した7月1日のツイートとSC社長によるリリース文、松尾さんの日刊ゲンダイでのその詳細経緯説明、そしてそれを受けての山下さんの7月9日サンデー・ソングブックでのコメント、ひと通り目を通しました(それぞれの内容を記載したページを末尾に載せました)。性加害問題に対する松尾さんのコメントには共感を覚えつつ、率直に言って松尾さん、山下さん、僕には「どっちもどっち」と映りました。
RKBラジオでの松尾さんの発言はジャニーズ批判というよりは、「今後のためにもジャニーズ、そして音楽業界はしっかりこれを機に対応するべき」との前向きな意見と理解しました。現状ジャニーズ事務所の対応が不十分であるということは言っているものの、BBCの番組や性被害告発者側の主張を鵜呑みにしてジャニーズ側を非難するような一方的な立場は取っていません。
そして、契約終了の件について。「私がメディアでジャニーズ事務所と藤島ジュリー景子社長に言及したのが理由です」としているツイートを見た時点では、松尾さんが理由を推測しているのかなとも思いましたが、日刊ゲンダイの記事を見るとそうではないことがわかります。彼のRKBラジオでの発言がニュースになった2日後にSC社長に呼び出され、ジャニーズの名前をメディアで口にしたことを理由に中途解約を切り出されたとのこと。後日SC社長が確認を取ったところ山下さんも賛成したという内容です。文面からは、山下さんに対して非常に気を遣い、直接的な批判を避けているのが感じられました。これまで良好な関係だった彼との関係を決定的に破壊するのは避けたかったのではないかと推測します。
しかし、僕はここに引っ掛かりました。ならば、なぜ7月1日のツイートで山下さんをわざわざ引き合いに出して契約終了を公に報告したのだろうと。そして、経緯をこと細かに明らかにする前になぜ山下さんと直接話さなかったのだろうと、モヤモヤっとしたものを感じずにはいられませんでした。日刊ゲンダイの記事で松尾さんは「メールを含む(山下)夫妻への直接の連絡は一切控えた」、「達郎さんに直接コンタクトを取るのはやはりためらわれた」としています。つまり連絡しようと思えばできたのにあえてしなかったということです。
SC社長への気遣いや何らかの内部の取り決めがあったのは想像に難くないです。でも、直接山下さんと話もしないまま、ここまで書くのはどうなんだろう?と思わずにはいられませんでした。結局松尾、山下両氏とも本件の重要な部分で間に第三者が入っているために、ボタンの掛け違いが発生している印象を持ちました。
今回の穏やかでない状況からすれば、松尾さんから山下さんへの連絡は実際には取りにくい状況だったのかも知れません。仮にそうだったとしても、松尾さんは詳細を明らかにする前に山下さんへの連絡を試みるべきだったと思うし、結果的に連絡がつかなかったのであればその経緯も説明した上で、前述記事を書けばよかったと思います。そんなことをしたら、山下さんに喧嘩を売ることになると考えたのでしょうか?しかし、ある意味7月1日のツイートで松尾さんはその道への一歩を既に踏み出してしまったのだと僕は思います。あのツイートをした時点で、最悪の場合山下さんと一戦を交える覚悟もなかったのかと驚いてしまいます。ジャニーズに関する松尾さんの発言については全くその通りだと僕も思うし非常に立派ですが、自身の契約終了の話となると中途半端だと感じます。一戦を交える覚悟がないのなら、不満は仕舞いこんでそっと退場すればよかったのではないでしょうか? 逆に案外直接話していれば、こんなことにはならず円満な関係を続けられたかも知れません。人間関係は意外とそんなものです。
そして山下さん側については、彼自身の発言はものの見事悪い意味で思った通りでした。基本的には性加害の問題も松尾氏の契約終了の問題も他人事のようで、まるで説明の体をなしていないと感じました。自ら誘った松尾氏の契約を終了する場に出てこなかった人なので、「サンデー・ソングブック内にて、山下達郎本人より大切なご報告がございます。」と事前に発表した上で語ったのは、思ったよりはしっかり対応していたと言えなくもありません。しかし、その内容が酷すぎました。
今回のジャニー喜多川氏の性加害問題について「作品に罪はありません」と作品を切り離して考える意思を示しつつ、山下さんの姿勢に批判的な人に対しては「きっとそういう方々には私の音楽は不要でしょう」と明らかに矛盾すること言ったことにそれは端的に表れていると思います。これは今心を痛めている彼のファンへの挑発に等しいし、彼らに対して微塵も敬意がないことを示しています。だって「俺の態度が嫌なら聴くなよ」そういうことでしょ?
山下さんがジャニーズ事務所に対して恩義を感じていることはわかりますが、今回彼の発言に耳を傾けた人たちはそんなことが聞きたかったわけではないでしょう。今回のコメントが松尾さんの契約終了に関する一件を受けてのものである以上、まずきちんと説明しなければならないのは、その点です。これについては:
「松尾氏が憶測に基づく一方的な批判をしたことが契約終了の一因となったことは認めるものの、理由は決してそれだけではない」
との説明でした。彼が言う「憶測に基づく一方的な批判」が具体的に何を指すのかは語っていません。僕が見る限り松尾さんは慎重に言葉を選んでおり、ジャニー喜多川氏を非難することすらしていません。「憶測に基づく一方的な批判」などしていないと思います。
そして「理由は決してそれだけではない」に関しては、含みを持たせただけでこれ以上何も言っていません。松尾さんは「ジャニーズ事務所と藤島ジュリー景子社長に言及したのが理由」と明言しているのですから、それ以外の理由があるのであれば、そのような勿体ぶった言い方をすべきではないでしょう。受け手の想像で松尾さんを悪者に仕立て上げようとする悪意を感じてしまうのは僕だけでしょうか?
山下さんがジャニー喜多川氏の性加害を知らなかったというのは恐らくそうなんでしょう。そう明らかにした上で山下さんはこうコメントしています。「性加害が本当にあったとしたら、それはもちろん許しがたいことであり、被害者の方々の苦しみを思えば、第三者委員会等での事実関係の調査というのは必須であると考えます。」これは基本的に松尾さんの言われていたことと同じではないでしょうか。本当にそう思っているのなら、なぜ松尾さんの契約終了に賛成なのか、ますます「それだけではない」部分を説明しなければ筋が通りませんよね。一番肝心なところを煙に巻いたままの説明でしかありませんでした。
性加害を擁護しているのではなく、アイドルたちに敬意を持って接したいだけなのだということですが、そのアイドルたちの一部が被害者として声を上げ始めている事実は無視でしょうか?それが果たして敬意をもって接していることになるのでしょうか?
今の世の中は黙っていると嘘が拡散してしまうので、山下さんも説明しておく必要性を感じたとのことでした。しかし、彼の今回のコメントは正しい理解を深める説明になったのでしょうか?僕には到底そうは思えません。
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【情報源】
5/15/2023『田畑竜介 Grooooow Up』における松尾潔氏のジャニーズに関するコメント(文字お越し)
https://rkb.jp/contents/202305/167325/
松尾潔氏の7/1/2023契約終了に関するツイート
https://twitter.com/kiyoshimatsuo/status/1675045489748873216
スマイルカンパニー小杉社長のリリース文(7/5/2023)
https://smile-co.jp/info/20230705.html
松尾潔氏、契約終了に関する詳細経緯説明(日刊ゲンダイ)(7/6/2023)
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/geino/325603
山下達郎氏、7/9/2023サンデー・ソングブックでのコメント(文字お越し)
https://www.oricon.co.jp/news/2286351/full/
僕は山下さん、松尾さんいずれもファンでも知り合いでもなく、特にどちらかに肩入れする理由はありません。(松尾さんは、僕がブラック・ミュージック・リヴュー[bmr]に書き始めた90年代、同誌で連載をされていて文章を読んだことはありますが、交流はなかったです。)なので、この一件については冷静な第三者的な視点で見ることができるのではと思っています。
事の発端となった5月15日のRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』における松尾さんのジャニーズ事務所に関するコメント、山下さんのマネジメント会社スマイルカンパニー(SC)との契約終了を報告した7月1日のツイートとSC社長によるリリース文、松尾さんの日刊ゲンダイでのその詳細経緯説明、そしてそれを受けての山下さんの7月9日サンデー・ソングブックでのコメント、ひと通り目を通しました(それぞれの内容を記載したページを末尾に載せました)。性加害問題に対する松尾さんのコメントには共感を覚えつつ、率直に言って松尾さん、山下さん、僕には「どっちもどっち」と映りました。
RKBラジオでの松尾さんの発言はジャニーズ批判というよりは、「今後のためにもジャニーズ、そして音楽業界はしっかりこれを機に対応するべき」との前向きな意見と理解しました。現状ジャニーズ事務所の対応が不十分であるということは言っているものの、BBCの番組や性被害告発者側の主張を鵜呑みにしてジャニーズ側を非難するような一方的な立場は取っていません。
そして、契約終了の件について。「私がメディアでジャニーズ事務所と藤島ジュリー景子社長に言及したのが理由です」としているツイートを見た時点では、松尾さんが理由を推測しているのかなとも思いましたが、日刊ゲンダイの記事を見るとそうではないことがわかります。彼のRKBラジオでの発言がニュースになった2日後にSC社長に呼び出され、ジャニーズの名前をメディアで口にしたことを理由に中途解約を切り出されたとのこと。後日SC社長が確認を取ったところ山下さんも賛成したという内容です。文面からは、山下さんに対して非常に気を遣い、直接的な批判を避けているのが感じられました。これまで良好な関係だった彼との関係を決定的に破壊するのは避けたかったのではないかと推測します。
しかし、僕はここに引っ掛かりました。ならば、なぜ7月1日のツイートで山下さんをわざわざ引き合いに出して契約終了を公に報告したのだろうと。そして、経緯をこと細かに明らかにする前になぜ山下さんと直接話さなかったのだろうと、モヤモヤっとしたものを感じずにはいられませんでした。日刊ゲンダイの記事で松尾さんは「メールを含む(山下)夫妻への直接の連絡は一切控えた」、「達郎さんに直接コンタクトを取るのはやはりためらわれた」としています。つまり連絡しようと思えばできたのにあえてしなかったということです。
SC社長への気遣いや何らかの内部の取り決めがあったのは想像に難くないです。でも、直接山下さんと話もしないまま、ここまで書くのはどうなんだろう?と思わずにはいられませんでした。結局松尾、山下両氏とも本件の重要な部分で間に第三者が入っているために、ボタンの掛け違いが発生している印象を持ちました。
今回の穏やかでない状況からすれば、松尾さんから山下さんへの連絡は実際には取りにくい状況だったのかも知れません。仮にそうだったとしても、松尾さんは詳細を明らかにする前に山下さんへの連絡を試みるべきだったと思うし、結果的に連絡がつかなかったのであればその経緯も説明した上で、前述記事を書けばよかったと思います。そんなことをしたら、山下さんに喧嘩を売ることになると考えたのでしょうか?しかし、ある意味7月1日のツイートで松尾さんはその道への一歩を既に踏み出してしまったのだと僕は思います。あのツイートをした時点で、最悪の場合山下さんと一戦を交える覚悟もなかったのかと驚いてしまいます。ジャニーズに関する松尾さんの発言については全くその通りだと僕も思うし非常に立派ですが、自身の契約終了の話となると中途半端だと感じます。一戦を交える覚悟がないのなら、不満は仕舞いこんでそっと退場すればよかったのではないでしょうか? 逆に案外直接話していれば、こんなことにはならず円満な関係を続けられたかも知れません。人間関係は意外とそんなものです。
そして山下さん側については、彼自身の発言はものの見事悪い意味で思った通りでした。基本的には性加害の問題も松尾氏の契約終了の問題も他人事のようで、まるで説明の体をなしていないと感じました。自ら誘った松尾氏の契約を終了する場に出てこなかった人なので、「サンデー・ソングブック内にて、山下達郎本人より大切なご報告がございます。」と事前に発表した上で語ったのは、思ったよりはしっかり対応していたと言えなくもありません。しかし、その内容が酷すぎました。
今回のジャニー喜多川氏の性加害問題について「作品に罪はありません」と作品を切り離して考える意思を示しつつ、山下さんの姿勢に批判的な人に対しては「きっとそういう方々には私の音楽は不要でしょう」と明らかに矛盾すること言ったことにそれは端的に表れていると思います。これは今心を痛めている彼のファンへの挑発に等しいし、彼らに対して微塵も敬意がないことを示しています。だって「俺の態度が嫌なら聴くなよ」そういうことでしょ?
山下さんがジャニーズ事務所に対して恩義を感じていることはわかりますが、今回彼の発言に耳を傾けた人たちはそんなことが聞きたかったわけではないでしょう。今回のコメントが松尾さんの契約終了に関する一件を受けてのものである以上、まずきちんと説明しなければならないのは、その点です。これについては:
「松尾氏が憶測に基づく一方的な批判をしたことが契約終了の一因となったことは認めるものの、理由は決してそれだけではない」
との説明でした。彼が言う「憶測に基づく一方的な批判」が具体的に何を指すのかは語っていません。僕が見る限り松尾さんは慎重に言葉を選んでおり、ジャニー喜多川氏を非難することすらしていません。「憶測に基づく一方的な批判」などしていないと思います。
そして「理由は決してそれだけではない」に関しては、含みを持たせただけでこれ以上何も言っていません。松尾さんは「ジャニーズ事務所と藤島ジュリー景子社長に言及したのが理由」と明言しているのですから、それ以外の理由があるのであれば、そのような勿体ぶった言い方をすべきではないでしょう。受け手の想像で松尾さんを悪者に仕立て上げようとする悪意を感じてしまうのは僕だけでしょうか?
山下さんがジャニー喜多川氏の性加害を知らなかったというのは恐らくそうなんでしょう。そう明らかにした上で山下さんはこうコメントしています。「性加害が本当にあったとしたら、それはもちろん許しがたいことであり、被害者の方々の苦しみを思えば、第三者委員会等での事実関係の調査というのは必須であると考えます。」これは基本的に松尾さんの言われていたことと同じではないでしょうか。本当にそう思っているのなら、なぜ松尾さんの契約終了に賛成なのか、ますます「それだけではない」部分を説明しなければ筋が通りませんよね。一番肝心なところを煙に巻いたままの説明でしかありませんでした。
性加害を擁護しているのではなく、アイドルたちに敬意を持って接したいだけなのだということですが、そのアイドルたちの一部が被害者として声を上げ始めている事実は無視でしょうか?それが果たして敬意をもって接していることになるのでしょうか?
今の世の中は黙っていると嘘が拡散してしまうので、山下さんも説明しておく必要性を感じたとのことでした。しかし、彼の今回のコメントは正しい理解を深める説明になったのでしょうか?僕には到底そうは思えません。
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【情報源】
5/15/2023『田畑竜介 Grooooow Up』における松尾潔氏のジャニーズに関するコメント(文字お越し)
https://rkb.jp/contents/202305/167325/
松尾潔氏の7/1/2023契約終了に関するツイート
https://twitter.com/kiyoshimatsuo/status/1675045489748873216
スマイルカンパニー小杉社長のリリース文(7/5/2023)
https://smile-co.jp/info/20230705.html
松尾潔氏、契約終了に関する詳細経緯説明(日刊ゲンダイ)(7/6/2023)
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/geino/325603
山下達郎氏、7/9/2023サンデー・ソングブックでのコメント(文字お越し)
https://www.oricon.co.jp/news/2286351/full/
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